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読書感想文です。

異色の人生指南書「好きなようにしてください」

読者からのキャリア相談を全て「好きなようにしてください」の一言で斬る異色の人生指南書「好きなようにしてください」の感想を書く。著者は一橋大学経営学者、楠木先生。

この本はニュースアプリ「NewsPicks」での「楠木教授のキャリア相談」という連載が元になっている。内容は読者から寄せられた様々なキャリア相談を先生がばっさり斬るというだけのものなのだが、楠木先生はなかなかに変わった考え方をされる方なので非常に面白い。この本の魅力は楠木先生の魅力だ。以下、この本のキャリア相談で私が一貫して感じた考え方を二つ挙げる。

 

 

根底にある考え方1

一つは「あくまでも個々人に選択の自由がある」という考えだ。自己原因説とも言える。自分の行動には必ず自分に選択権がある。もちろん他人の行動には他人の選択権がある。これを犯すことはできないしその分責任が伴う。自分は自分他人は他人という明確な線引きがある。

 

 

例えばこの本の中には財閥系からベンチャーへの転職に悩む男性の話が出てくる。

男性はあるIT系のスタートアップの社長と知り合い、ビジョンと先進性に魅かれ面接を受け合格した。今の財閥系の企業は安定こそしているものの、仕事でワクワクするようなことがめったにない。しかし結婚したばかりの妻とその両親が転職に反対している。

妻の希望と、安定と、社会的なステータスを加味し今の企業に残るべきか否かを相談する。

 それに対して先生は以下のような趣旨の回答をする。

仕事として考えると社会的なステータスは無価値であり、当人の満足を重視し明らかにスタートアップを選ぶべき。ボトムラインは仕事を取るか妻を取るかにある。まずは両方を取るために妻の説得に全力を尽くす。それでもダメならどちらかの選択肢を自分の自由で選択する。

 

この回答には「あくまでも個々人に選択の自由がある」という考えを明確に感じとれる。自分には妻と仕事のどちらかを選択する自由があり、妻には財閥系の夫に固執する自由もあるしITベンチャーの夫を受け入れる自由もある。ITベンチャーで働くことを許容できない妻との生活は前途多難と言いつつも、それならば仕方がないと受け入れ夫自身が選べる選択肢を自由に選ぶ。

この潔さが僕は非常に好きだ。アドラー心理学の「課題の分離」という考え方にも似ている。多くの人が対人関係のカードは相手が握っていると考えてしまいがちだが自分もカードを持っている。そのカードをしっかりと見極めて自分のカードを好きなようにするのがいい。

 

 

 

根底にある考え方2

二つ目は「意識的に頑張っても意味がない、流れに身を任せればいい」という考えだ。

先生は「川の流れに身をまかせ」という言葉をこの本の中で何度も使われている。世の中は自分の思い通りにならない。目標は持たない。なるようになる。努力しなきゃと思った時点で適性がないから次に移ればいい。「スキこそものの上手なれ」を信じて「努力しなきゃ」と思わないで努力をできることに注力すればいい。先生は天才以外は努力を意識せずに努力できる分野で川の流れに身を任せればいい。この考えが楠木先生自身のキャリアを語る際に何度も登場する。

 

この考えは僕にとってかなり新鮮だった。自己啓発本を読んだりTedでいわゆる成功者たちのスピーチを聞いたりしていても、頑張ることが無意味だという主張に触れたのは初めてな気がする。楠木先生ならではの面白い考え方だ。

しかし僕はこの考え方が通用するのはむしろ一部の天才だけだと思う。先天的な向き不向きというものがあったとして、僕は凡人が向き不向きを真に見極めるためには意識的な努力が必要だと思うしそもそも向き不向きがあるのかも怪しいと思っている。凡人の僕は今まで、これが自分に一番向いている仕事にしようと感じたものがない。無意識的に努力ができていたことでも、ある日何かにつまずいたり視野が開けたりしてやっぱり自分には向いていないのかもしれないと思うことがしょっちゅうある。その度に意識的に努力をしてまたそのうちなんとか好きになる。これを繰り返す。僕のような多くの凡人が仕事を形にするには時には意識的に努力をして時には無意識の努力ができて、という無限ゲームを繰り返すしかないのではないかと思う。